死んだ父親の趣味は骨董収集
家中に鎧や能面、自在鍵、火鉢、などがあったけど特に刀が好きだったみたい。
日曜日の朝は日本刀のお手入れの時間。朝から正座して、ポンポンと打粉を抜き身の刀に叩き付けていた、何本も並べて手入れをしてる中で1本、とても細身のキレイな好きな刀があった、父親曰く、南北朝あるいは鎌倉時代の一作拵え(刀、ツバ、サヤ、など一揃えのデザインと言う事らしい)だぞ、死んだら、お前にヤルと言われながら育った。その為か、小学生なのに日本刀の手入れの手順もしっかり覚えさせられた、剣道もやらされて、居合い抜きも通わされた、こうして刀所持への布石を歩かされていた事になる....。
そして、父親が死んで、遺品の整理をしたら、沢山あった刀も重要なものはほとんど手放していたけど言っていたとおり、その刀だけ売られずに残されて
いた...........。
こうして、子供の頃、馴染みだった刀に久しぶりに触れた。大人になって、改めて見ると精緻な仕事とは遠い、やや雑なつくりに見える。でも実際に刀を戦いで使っていた時代のものだから、江戸時代の戦わなくなってからの元禄な時代の作りとは違う、装飾的ではなく実戦の緊張感のある、服で言ったらワークウエアの面構えな一振り。最後の手入れは何年も前だったろうから、中身は曇りはじめているけど、なんの表面処理もしていない剥き出しの地金が錆びないなんて、やはり刀は魔性
の純度が高い。
とにかく、子供の頃から聞いていた通りにその刀は自分の手元に。
法事も終了、さて、東京へ持って帰ろうと、父親の死でまだ潤む目をしている母親に"ねぇ、この刀の登録書は?"と聞くと、先程までとは打って変わってキョトンと
した顔で"捜したけど出て来ないから無いと思う"とあっさり。
えっ、父親はこの刀を無登録で所持してたの、何十年も?昔、床の間にあった火縄銃もまさか当時、無届けで所持していたのか?恐るべし、無政府状態の実家。父親の、遵法精神の無さには呆れるけど、いい歳してこっちが、銃砲刀剣不法所持で逮捕されては困るので管轄の警察署を訪ねる。
訪問先は生活安全課。
事前に要領を聞いた折、刀を持ち歩きたくなかったのに警察までは持ってこいとの事。応対に出た担当の人に遺品で出て来た経緯を説明すると、どうやら珍しい事ではないらしい。特に応対に出た担当官の前任地は長久手の古戦場に近い場所だったゆえに古い火縄銃が良く蔵から発見されていた、と。未登録の日本刀を警察署に持ち込むという行為に緊張してたから損した気分。しかし、訳わからんな、未だに火縄銃がよく出て来るって、当時そんなに火縄銃は沢山あったのか?
まぁ、とにかく、その担当の人に刀を渡して全長など計ってもらって、ツカをとって中の銘(刀鍛冶がタガネで彫り込んだ字)を確認してもらってから今回のように所持者が死去し遺品整理で発見された刀を所持する為の申請、登録、許可までの流れの説明を聞き、警察署を後にして家路についた。
死ぬ程面白い、都庁での審査会の模様は次回。
(小林)